東京高等裁判所 平成7年(行ケ)223号 判決 1997年10月22日
東京都東久留米市前沢3丁目14番16号
原告
ダイワ精工株式会社
代表者代表取締役
松井義侑
訴訟代理人弁理士
鈴江武彦
同
坪井淳
同
橋本良郎
同
中 村誠
同
風間鉄也
同
水野浩司
同
高山宏志
大阪府堺市老松町3丁77番地
被告
株式会社シマノ
代表者代表取締役
島野喜三
訴訟代理人弁護士
野上邦五郎
同弁理士
小林茂雄
主文
特許庁が、平成6年審判第3446号事件について、平成7年7月25日にした審決を取り消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由
第1 当事者の求めた判決
1 原告
主文と同旨
2 被告
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
第2 当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯
被告は、名称を「釣竿」とする特許第1788006号発明(昭和58年12月15日出願、平成2年10月4日出願公告、平成5年9月10日設定登録、以下「本件発明」という。)の特許権者である。
原告は、平成6年に被告を被請求人として、上記特許を無効とする旨の審判の請求をした。
特許庁は、同請求を平成6年審判第3446号事件として審理したうえ、平成7年7月25日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をし、その謄本は、同年8月21日、原告に送達された。
2 本件発明の要旨
釣竿の長さ方向と直交する方向にカーボン繊維を並び沿わせたシートに合成樹脂を含浸させた第1プリプレグを巻装して前記竿本体の最内層を形成し、
該最内層の外側に、釣竿の長さ方向にカーボン繊維を並び沿わせた引揃えシートに合成樹脂を含浸させた第2プリプレグを巻装して、前記竿本体の外側層を形成すると共に、
外側層を形成する第2プリプレグを最内層を形成する第1プリプレグよりも厚肉で且つ巻回数を多くすることにより、前記最内層の厚さを、外側層の厚さより薄くし
かつ、前記第2プリプレグの単位体積当りの合成樹脂含浸量をカーボン繊維を巻装可能で33wt%以下とし、
前記第1プリプレグの単位体積当りの合成樹脂含浸量を、第2プリプレグより多く、かつ、50wt%以下としたことを特徴とする釣竿。
3 審決の理由の要旨
審決は、別添審決書写し記載のとおり、原告が提出した特開昭58-212936号公報(審決甲第1号証、本訴甲第3号証、以下「引用例1」といい、その発明を「引用例発明1」という。)、特開昭50-151693号公報(審決甲第2号証、本訴甲第4号証、以下「引用例2」という。)及び特開昭56-133137号公報(審決甲第3号証、本訴甲第5号証、以下「引用例3」という。)によっては、本件発明が、引用例発明1と同一であるとすること、又は引用例発明1に基づき若しくは引用例発明1と引用例2、3記載の発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものとすることはできないから、その特許を無効とすることはできないと判断した。
第3 原告主張の審決取消事由の要点
1 審決の理由中、本件発明の要旨の認定、引用例1~3の各記載事項の認定、本件発明と引用発明1との一致点及び各相違点の認定は認める。
本件発明と引用例発明1とが相違点<2>において実質的に相違するものではないとの判断(審決書13頁17行~14頁10行)は認めるが、相違点<1>の判断は争う。
審決は、各引用例の記載事項の解釈及び本件発明の効果に対する判断を誤った結果、本件発明と引用例発明1とが相違点<1>において実質的に同一であるものとはいえないと誤って判断し(取消事由1)、また、本件発明が引用例発明1から当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないと誤って判断し(取消事由2)、さらに、本件発明が引用例発明1と引用例2、3記載の発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものとすることはできないと誤って判断した(取消事由3)結果、誤った結論に至ったものであるから、違法として取り消されなければならない。
2 取消事由2、3(進歩性に関する判断の誤り)についての詳細
仮に本件発明と引用例発明1とが、相違点<1>、すなわち、「本件発明では、外側層を形成する第2プリプレグを最内層を形成する第1プリプレグよりも巻回数を多くするものであるのに対し、甲第1号証(注、引用例1)にはこれについて記載されていない点」(審決書12頁17~20行)において実質的に同一でないとしても、本件発明は、引用例発明1に基づき若しくは引用例発明1と引用例2、3記載の発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものである。
(1) 引用例発明1に基づく進歩性の判断の誤り
審決は、本件発明と引用例発明1との唯一の相違点である相違点<1>につき、「甲第1号証(注、引用例1)・・・には、巻き付け長さを変える点については、『かかる操作のみで最適な圧縮強度を得るのは極めて難しい。』と否定している。そのうえで、甲第1号証に記載された発明は、補強繊維量の異なるプリプレグを用いることにより従来の欠点の解消を図ったものである。このことは、甲第1号証記載の発明は、このような否定された技術を用いないことを前提とすると解され、繊維補強量の異なる2種のプリプレグを用いる甲第1号証記載の発明においてこのような従来技術で否定された構成を採用することが容易になしうるということはできない。」(同15頁5~16行)と判断した。
しかしながら、引用例1(審決甲第1号証、本訴甲第3号証)には、「補強繊維の使用量が同一である2枚のUDプリプレグを重ね合わせて使用すると、周方向の補強繊維量が多くなりすぎてしまい、圧縮強度がオーバースペックになってしまうのである。・・・もっとも、上述したような問題は、上記他方のUDプリプレグ、すなわち補強繊維の繊維軸がマンドレルの周方向を向くように巻き付けられるUDプリプレグの巻き付け長さを調整することによってある程度解決できる。」(同号証2頁右下欄18行~3頁左上欄10行)と記載されている。ここでいう「オーバースペック」とは、釣竿の機能上、長さ方向と周方向の補強繊維量が同一の場合、径方向の圧縮強度が必要以上に強化され、竿調子が整えにくくなることをいうから、上記記載は、圧縮強度がオーバースペックとならないように、補強繊維の繊維軸が周方向に配置されたUDプリプレグ(本件発明の第1プリプレグに該当)の巻付け長さを、補強繊維の繊維軸が長さ方向に配置されたUDプリプレグ(本件発明の第2プリプレグに該当)よりも短く調整するという意味であり、そのような構成をとれば、必然的に外側層を形成する第2プリプレグは最内層を形成する第1プリプレグよりも巻回数が多くなるのである。すなわち、外側層を形成する第2プリプレグを最内層を形成する第1プリプレグよりも巻回数を多くするという構成は、引用例1に肯定的に記載されている。
引用例1には、引き続いて、「しかしながら、上記巻き付け長さは、管状体の肉厚が均一になるように、通常、マンドレルを整数回巻き回す長さに調節されるから、かかる操作のみで最適な圧縮強度を得るのは極めて難しい。」(同3頁左上欄10~14行)としたうえで、樹脂含浸量、補強繊維の単位当たりの使用量を調節することにより、軽量で、曲げ強度の高いものを得ることができることが記載されているが、樹脂含浸量、補強繊維の単位当たりの使用量を調節する際に、巻付け長さを調整することを否定する記載はない。そして、樹脂含浸量、補強繊維の単位当たりの使用量を調節することと、巻付け長さを調整することとの間には、技術的な矛盾又は困難性はなく、互いに独立して任意に行える設計事項であるから、引用例1には、樹脂含浸量、補強繊維の単位当たりの使用量を調節する際に、併せてその巻付け長さを調整することも開示されているということができる。
このように、引用例1には、圧縮強度のオーバースペックの問題を解消するために、プリプレグの巻付け長さを調整する技術を肯定的に評価したうえで、巻付け長さはマンドレルを整数回巻き回す長さに調整されるから、この技術のみを採用しても、最適な圧縮強度を得ることは難しいという旨が記載されているのであって、これと他の方法とを組み合せることを含めて、巻付け長さを調整する技術自体を否定したものではない。そして、補強繊維量の異なる第1プリプレグ及び第2プリプレグを用いる引用例発明1を前提とした場合に、上記のとおり、樹脂含浸量、補強繊維の単位当たりの使用量を調節することと、巻付け長さを調整することとの間には、技術的な矛盾又は困難性はなく、これらを組み合せることは、当業者において容易に想到できる程度のものである。
(2) 本件発明の効果の判断についての誤り
審決は、さらに、「本件発明は、上記相違点<1>の構成を採用することにより、本件発明の他の構成と相俟って、明細書に記載されるような、竿全体の重量を軽量にすることができるとともに、竿の圧潰に起因する内面側の表層割れ、脱芯の際の最内層の表面の割れの防止、製造時の芯金への巻き付け易さ、加熱工程での第1プリプレグへの加熱工程での流入による最内層および外側層の引き裂き強度の向上等の効果を奏するものである。」(審決書15頁20行~16頁8行)と判断した。
しかしながら、プリプレグの巻付け長さを調整することにより、他の構成と相俟って上記のような効果を奏することは本件発明の明細書に記載がない。また、内面側の表層割れ、脱芯の際の最内層の表面の割れの防止、製造時の芯金への巻付け易さ、引裂き強度の向上等の効果は、外側層を形成する第2プリプレグの巻回数を多くすることとは全く関係がなく、竿全体の軽量化は、樹脂含浸量の少ない第2プリプレグによって形成される外側層を厚肉にすれば達成されるもので、その場合に、第2プリプレグを厚肉にすることに加え、巻回数を多くすることによって特別の効果が奏されるものではない。
のみならず、プリプレグの巻付け長さを調整することによって強度の向上があるかどうかを判断するためには、長さ方向の補強繊維量、樹脂含浸量等他の条件を同一としたうえで、巻回数のみを変えてその強度の比較を行う必要があるところ、被告従業員作成の強度解析結果報告書(甲第9号証)では、引用例発明1に相当する試料と本件発明に相当する試料とで、巻回数のみならず、厚みも異ならせており、このような比較によって本件発明の効果を正しく評価することはできない。他方、原告の依頼による試験結果報告書(甲第10号証)によれば、本件発明の規定範囲内で設定した巻回数のものと、規定範囲外で設定した巻回数のものとの間に、顕著な強度の差異は見られず、また、原告従業員作成のシミュレーションデータ(甲第11号証)によれば、同じ成形厚の成型品を製造する際に、第1プリプレグ及び第2プリプレグの合成樹脂量及び巻回数を同一に設定したもので、本件発明の規定範囲内の設定のものよりも、軽量で強度が高いものがあるとの結果が示された。
したがって、審決の上記判断も誤りである。
(3) 引用例発明1と引用例2、3記載の発明に基づく進歩性の判断の誤り
審決は、「甲第2号証(注、引用例2)および甲第3号証(注、引用例3)には、いずれも、管の長さ方向と直交する方向にカーボン繊維を並び沿わせたシートに合成樹脂を含浸させた第1プリプレグ、および管の長さ方向にカーボン繊維を並び沿わせた引揃えシートに合成樹脂を含浸させた第2プリプレグを巻装し、かつ後者の巻き回数を前者のものより多くすることにより製造された釣竿或いは管状体が記載されているものの、両プリプレグの樹脂含浸量は同一と認められ、これら甲各号証に記載されたものは甲第1号証(注、引用例1)記載の従来技術と異なるものではなく、樹脂含浸量が異なるプリプレグの巻き回数を異ならせることについての示唆はないというべきである。」(審決書16頁19行~17頁11行)とし、「甲第2号証(注、引用例2)並びに甲第3号証(注、引用例3)には、相違点<1>の構成についての記載ないし示唆はないから、本件発明が、甲第1~第3号証(注、引用例1~3)に記載された発明から当業者が容易になし得たものであるとはいえない。」(同17頁12~16行)と判断した。
しかしながら、引用例1には、本件発明における2つのプリプレグの樹脂含浸量を異ならせることが示されているし、第2プリプレグを厚肉にすることも示されている。そして、2つのプリプレグの樹脂含浸量を異ならせることと、巻回数を異ならせることとは相互に関連しない独立の事項である。そうすると、2つのプリプレグの樹脂含浸量を異ならせることが示されている引用例発明1に、第2プリプレグの巻回数を多くすることによって、第2プリプレグを厚肉とすることが記載された引用例2、3の技術を組み合せる場合に、引用例2、3の技術において2つのプリプレグの樹脂含浸量が異なっている必要はないのであり、引用例発明1に引用例2、3を適用して本件発明を導くことは当業者が容易にできる程度のことである。
したがって、審決の上記判断は誤りである。
第4 被告の反論の要点
1 審決の認定判断は正当であって、原告主張の審決取消事由はいずれも理由がない。
2 取消事由2、3に対する反論
(1) 原告の主張(1)について
審決認定の相違点<1>は、本件発明と引用例発明1とを対比した場合の相違点であって、本件発明と引用例1に記載されたその他の技術とを比較した場合の相違点ではないというべきところ、引用例1において「補強繊維の繊維軸がマンドレルの周方向を向くように巻き付けられるUDプリプレグの巻き付け長さを調整すること」は、従来技術として記載されているのである。しかも、引用例1においては、「上記巻き付け長さは、管状体の肉厚が均一となるように、通常、マンドレルを整数回巻き回す長さに調節されるから、かかる操作のみで最適な圧縮強度を得るのは極めて難しい」とされ、その故に引用例発明1がなされたものであるから、引用例発明1とプリプレグの巻付け長さを調整する技術とは相容れないものとされているのである。
すなわち、従来技術であるプリプレグの巻付け長さを調整する技術が現実に可能であったとしても、引用例発明1は、この技術を「極めて難しい」としたうえ、これとは別のプリプレグの補強繊維量を調節する技術を採用したのであり、しかも、第1、第2プリプレグを予め重合貼着し、所定寸法に裁断した2層プリプレグシートを用いているのであるから、引用例発明1においては、第1、第2プリプレグの長さ(したがって巻回数)を異にすることは予定されておらず、この従来技術は引用例発明1とは相容れないものである。
そうすると、引用例1の開示から、これらの技術を有機的に結合して一個の技術的思想とすることが、当業者において容易に推考できるとは到底いうことができない。
(2) 原告の主張(2)について
本件発明は、第1、第2プリプレグの樹脂量及び厚さの限定とその巻き方とが相俟って、できる限り軽量で所定の強度を得られるようにし、それとともに明細書記載の各効果も同時に奏することができるものである。例えば、マンドレルに直接接触する部分は、比較的樹脂量の多い第1プリプレグを用いることにより接着性を良くし、第2プリプレグは長さ方向の繊維量をできる限り多くするために樹脂量を33wt%以下とし、厚肉で巻回数を多くして、テーブルへのべたつきを少なくするとともに、強度の安定した軽くて強い釣竿の構成としているのである。仮に第2プリプレグの厚さを極端に厚くして、巻回数を第1プリプレグと同一とすると、巻き付きにくくなるものである。
本件発明の効果は、被告従業員作成の強度解析結果報告書(甲第9号証)によっても明らかである。これによれば、本件発明の実施例に相当する試料No.2が従来技術としての引用例1の実施例に相当する試料No.1よりも優位性がみられることは明らかである。これに対し、原告の依頼又は原告従業員作成の試験結果報告書(甲第10、第11号証)は、本件発明が釣竿であることを無視して、釣竿に使用しえない特異な構成のものを用いた試験又はシミュレーションに基づくものであって、釣竿の特性の比較としては不適切なものである。
(3) 原告の主張(3)について
引用例2記載の発明は、2種のプリプレグの繊維の方向をクロスさせることを目的とする発明であり、引用例3記載の発明は、プリプレグから管状体を成形する場合に適切な成形圧を加えるため収縮チューブを用いるもので、単にその効果を試すためにプリプレグを巻き回したものであるから、いずれも、本件発明と同様の目的でプリプレグの巻回数の調整を行うものではなく、本件発明とその目的を全く異にするものである。
そして、引用例1においては、2つのプリプレグの巻回数を異ならせるという技術は引用例発明1と相容れないものとされているのであるから、引用例2、3が公知例に当たるとしても、これらを有機的に結合させ、本件発明の構成に想到することは、当業者において容易にできることではない。
第5 証拠
本件記録中の書証目録の記載を引用する。書証の成立については、甲第11号証を除き、当事者間に争いがない。
第6 当裁判所の判断
1 取消事由2、3(進歩性に関する判断の誤り)について
審決の本件発明と引用例発明1との一致点の認定、相違点<2>の認定及びこの点で本件発明と引用例発明1とが実質的に相違するものとはいえないとした判断については、当事者間に争いがない。
そうすると、審決認定の相違点<1>、すなわち、「本件発明では、外側層を形成する第2プリプレグを最内層を形成する第1プリプレグよりも巻回数を多くするものであるのに対し、甲第1号証(注、引用例1)にはこれについて記載されていない点」(審決書12頁17~20行)が、両発明の唯一の相違点ということになるので、この点について検討する。
(1) 引用例1には、審決の認定のとおり、次の記載があることは、当事者間に争いがない。
「本発明は繊維強化樹脂管状体に関し、さらに詳しくは、繊維強化樹脂の釣竿やゴルフシャフトなどの管状体に関する。」(審決書5頁14~17行)
「釣竿においては、できるだけ軽く、かつ曲げ強度が高いことが要求されている。」(同5頁18~20行)
「かかる問題を解決するために、従来は、たとえば特公昭54-36624号公報に記載されているように、単位面積当りの補強繊維の使用量が同一である2枚のUDプリプレグを用い、マンドレルに巻き付ける際にこれら2枚のUDプリプレグをその補強繊維の繊維軸が互に交差するように手積によって重ね合わせ、・・・補強繊維の使用量が同一である2枚のUDプリプレグを重ね合わせて使用すると、周方向の補強繊維量が多くなりすぎてしまい、圧縮強度がオーバースペックになってしまうのである。・・・管状体の重量を増大させる・・・もっとも、上述したような問題は、上記他方のUDプリプレグ、すなわち補強繊維の繊維軸がマンドレルの周方向を向くように巻き付けられるUDプリプレグの巻き付け長さを調整することによってある程度解決できる。しかしながら、上記巻き付け長さは、管状体の肉厚が均一になるように、通常、マンドレルを整数回巻き回す長さに調整されるから、かかる操作のみで最適な圧縮強度を得るのは極めて難しい。」(同6頁1~20行)
この記載によると、引用例1には、釣竿等の管状体が周方向に補強繊維を並び沿わせた最内層(本件発明の第1プリプレグ層に相当する第2のUDプリプレグ層)と、長さ方向に補強繊維を並び沿わせた外側層(本件発明の第2プリプレグ層に相当する第1のUDプリプレグ層)とから形成されることに伴って生ずる周方向の補強繊維量過多、ひいてオーバースペック・重量増加という課題につき、外側層を形成するUDプリプレグを最内層を形成するUDプリプレグよりも巻回数を多くする技術を、その解決手段の一として指摘しながらも、当該技術につき「上記巻き付け長さは、管状体の肉厚が均一になるように、通常、マンドレルを整数回巻き回す長さに調整されるから、かかる操作のみで最適な圧縮強度を得るのは極めて難しい」と評価したうえ、上記課題の解決手段としては、最内層を形成するUDプリプレグを外側層を形成するUDプリプレグよりも補強繊維量を少なくし、薄肉とする技術を採用し、外側層を形成するUDプリプレグを最内層を形成するUDプリプレグよりも巻回数を多くする技術をあえて採用しないとしているものと認められる。
そうすると、引用例発明1が周方向の補強繊維量の過多という課題に対し、外側層を形成するUDプリプレグと最内層を形成するUDプリプレグとの巻付け長さ、すなわち、巻回数を異ならせるという技術を採用しなかった理由は、要するに、2種のプリプレグの巻付け長さを異ならせるとしても、その長さは「管状体の肉厚が均一になるように、マンドレルを整数回巻き回す長さ」であることを要し、任意の長さに設定できるわけではなく、したがって、プリプレグ中の補強繊維量を適切に調節できるわけではないから、「かかる操作のみで最適な圧縮強度を得るのは極めて難しい」という点にあり、引用例1には、他に当該技術を忌避する理由の記載はない。
そうであれば、最内層及び外側層を形成する各プリプレグの巻付け長さ、すなわち、巻回数を異ならせるという技術とこれら各プリプレグの補強繊維量を異ならせる技術は相互に排斥しあう技術ではなく、両者の技術を併用することも可能であることは、引用例1の上記記載から直ちに理解されるところである。引用例1に、このような技術の併用が技術的に困難であるとの記載はない。
(2) 一方、引用例2、3に、審決認定の記載事項(審決書9頁13行~10頁20行)があることは、当事者間に争いがない。
そして、引用例2(甲第4号証)には、さらに、その発明が「繊維強化プラスチツクからなるつり竿において、曲げに対する性能を大幅に改善した、強度、耐衝撃性に優れたつり竿に関するものである」(同号証1頁左下欄16~19行)こと、「円周方向2の補強をつり竿の内層部10にしようとする場合は、・・・芯型11に円周方向2の補強として織物プリプレグ4の繊維密度の大きい方向5の補強用繊維糸7または平行糸条からなるプリプレグの補強用繊維糸とつり竿9の軸方向1となす角度を、α=±80°~90°に巻き、その後・・・パイプ軸方向1の補強を目的とし、織物プリプレグの繊維密度の大なる方の補強用繊維糸6または平行糸条のプリプレグを構成する補強用繊維糸がつり竿の軸方向1と一致する様に巻(く)」(同2頁右下欄7~17行)ことが記載されている。
また、引用例3(甲第5号証)には、その特許請求の範囲に、「(1)芯体の周りに樹脂含浸した繊維補強管状体を形成し、この外側に肉厚0.03mm以上、樹脂の加熱硬化処理温度に於ける径方向の熱収縮率が15%以上であり、当該温度に於ける収縮応力が2kg/cm2以上である熱収縮チユーブを被包し、加熱硬化処理することを特徴とする繊維補強樹脂製管状体の成形方法。(2)熱収縮チユーブとしてその肉厚が0.5mm以上、その径方向に於ける熱収縮率が30%以上であるものを用いることを特徴とする特許請求の範囲第1項記載の繊維補強樹脂管状体の成形方法。(3)熱収縮チユーブとしてその熱収縮応力が5kg/cm2以上のものを用いることを特徴とする特許請求の範囲第1項又は第2項記載の繊維補強樹脂製管状体の成形方法。」(同号証特許請求の範囲)の発明が記載されており、その発明が「繊維強化プラスチツクスのプリプレグから管状体を成形するに際して、用いる熱収縮チユーブの性質を選択することにより補強繊維の物性利用率が高く、かつ成形物中に空隙を生ずることなくかつ、肉厚が均一で品質の優れた管状体の成形法を提供することを目的とする」(同2頁右上欄10~15行)ものであることが記載されている。
そうすると、引用例2には、曲げ強度等の優れた釣竿を成形することを目的として、芯型(マンドレル)にその周方向の補強を目的として周方向に補強繊維を並び沿わせた(又は軸方向に比べ周方向の補強繊維量の割合が大きい)プリプレグを巻いて最内層とし、その外側に軸方向の補強を目的として軸方向に補強繊維を並び沿わせた(又は周方向に比べ軸方向の補強繊維量の割合が大きい)プリプレグを巻いて外側層とし、かつその外側層のプリプレグが最内層のプリプレグよりも巻回数が多くなるようにする技術が記載されており、また、引用例3にも、管状体を成形するに当たって、周方向に補強繊維を並び沿わせたプリプレグを最内層とし、その外側に軸方向に補強繊維を並び沿わせたプリプレグを巻き、さらにその外側に周方向に補強繊維を並び沿わせたプリプレグを巻いて最外層とし、かつ軸方向に補強繊維を並び沿わせたプリプレグの巻回数が周方向に補強繊維を並び沿わせたプリプレグの巻回数の合計よりも多くなるようにする技術が記載されていることが認められ、このことと、引用例1に従来技術の説明として、前示「上述したような問題は、上記他方のUDプリプレグ、すなわち補強繊維の繊維軸がマンドレルの周方向を向くように巻き付けられるUDプリプレグの巻き付け長さを調整することによってある程度解決できる」と記載されていることによれば、外側層の軸方向に補強繊維を並び沿わせたプリプレグ(本件発明の第2プリプレグ)の巻回数を、最内層の周方向に補強繊維を並び沿わせたプリプレグ(本件発明の第1プリプレグ)よりも多くする技術は、本件出願前において周知慣用技術であったことが認められる。仮に周知慣用技術でないとしても、引用例2、3に記載された上記技術が公知の技術であることは、被告も認めるところである。
被告は、引用例2、3記載の技術は、いずれも、本件発明と同様の目的でプリプレグの巻回数の調整を行うものではないと主張するが、引用例2、3の各特許請求の範囲には、上記のプリプレグの構成が記載されていないとはいえ、各実施例におけるそのプリプレグの構成自体は、本件発明と同様の目的を有するものと考えられるから、その主張は失当である。
(3) 以上の事実によれば、最内層を形成するUDプリプレグの補強繊維量を外側層を形成するUDプリプレグよりも少なくする、換言すれば、最内層を形成するUDプリプレグの樹脂含浸量の割合を外側層を形成するUDプリプレグよりも多くする技術を採用した引用例発明1に、引用例2、3に示されている外側層の軸方向に補強繊維を並び沿わせたプリプレグ(本件発明の第2プリプレグ)の巻回数を、最内層の周方向に補強繊維を並び沿わせたプリプレグ(本件発明の第1プリプレグ)よりも多くする技術を適用して、本件発明の構成に至ることは、当業者であれば容易に想到することができるものというべきである。
被告は、引用例1においては、第1、第2プリプレグの長さ、すなわち、巻回数を異にすることは予定されておらず、この従来技術は引用例発明1とは相容れないものとされているから、引用例1より、これらの技術を有機的に結合して一個の技術的思想とすることが当業者において容易に推考できるとはいえないと主張するが、如上のとおりであるから、その主張は採用できない。
(4) 審決が認定する本件発明の効果(審決書15頁20行~16頁8行)は、本件明細書(甲第2号証の1、2)記載の本件発明の効果を要約したものと認められるが、それが引用例発明1に引用例2、3記載の技術を適用した場合に当業者に予測できる以上の効果であるとは、本件全証拠によっても認めることはできない。
被告従業員作成の強度解析結果報告書(甲第9号証)記載の実験結果によれば、引用例発明1の実施例に相当する試料1と本件発明の実施例に相当する試料2との間に、重量、曲げ強度、比強度等に有意の差が生じていると認められるが、引用例2、3記載の技術を適用しない引用例発明1の効果とこれを適用した本件発明の効果とを対比すれば、その間に差異が生ずることは当然のことというべきであり、この実験結果から、本件発明の効果が、引用例発明1に引用例2、3の技術を適用した場合に予測できる以上の効果であるということはできない。
(5) 以上のとおりであるから、本件発明は、引用例発明1と引用例2、3に記載された技術に基づいて当業者が容易に発明することができたものというほかはなく、審決が、本件発明は、引用例発明1に基づき、又は引用例発明1と引用例2、3記載の発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものとすることはできないと判断したことは、誤りといわなければならない。
2 よって、原告の請求は、理由があるから、これを認容することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法7条、民事訴訟法89条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 牧野利秋 裁判官 石原直樹 裁判官 清水節)
平成6年審判第3446号
審決
東京都東久留米市前沢3丁目14番16号
請求人 ダイワ精工株式会社
東京都千代田区霞が関3丁目7番2号 鈴榮内外國特許事務所内
代理人弁理士 鈴江武彦
東京都千代田区霞が関3丁目7番2号 鈴榮内外國特許事務所内
代理人弁理士 村松貞男
東京都千代田区霞が関3丁目7番2号 鈴榮内外國特許事務所内
代理人弁理士 坪井淳
東京都千代田区霞が関3丁目7番2号 鈴榮内外國特許事務所内
代理人弁理士 橋本良郎
大阪府堺市老松町3丁77番地
被請求人 株式会社 シマノ
東京都豊島区南池袋3-18-35 0Kビル302号 小林特許事務所
代理人弁理士 小林茂雄
上記当事者間の特許第1788006号発明「釣竿」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。
結論
本件審判の請求は、成り立たない。
審判費用は、請求人の負担とする。
理由
Ⅰ. 手続の経緯・本件発明の要旨
本件第1788006号特許は、昭和58年12月15日に出願され、平成2年10月4日に特公平2-44492号として出願公告された後、平成5年9月10日に設定登録されたものであって、特許第1788006号発明(以下、本件発明という。)の要旨は、明細書及び図面の記載からみて、特許請求の範囲に記載されたとおりの「釣竿の長さ方向と直交する方向にカーボン繊維を並び沿わせたシートに合成樹脂を含浸させた第1プリプレグを巻装して前記竿本体の最内層を形成し、
該最内層の外側に、釣竿の長さ方向にカーボン繊維を並び沿わせた引揃えシートに合成樹脂を含浸させた第2プリプレグを巻装して、前記竿本体の外側層を形成すると共に、
外側層を形成する第2プリプレグを最内層を形成する第1プリプレグよりも厚肉で且つ巻回数を多くすることにより、前記最内層の厚さを、外側層の厚さより薄くし
かつ、前記第2プリプレダの単位体積当りの合成樹脂含浸量を、カーボン繊維を巻装可能で33wt%以下とし、
前記第1プリプレグの単位体積当たりの合成樹脂含浸量を、第2プリプレグより多く、かつ、50wt%以下としたことを特徴とする釣竿。」にあるものと認める。
Ⅱ. 当事者の主張等
1. 請求人の主張・提出した証拠方法
(1) 請求人の主張
本件発明は、次の理由により特許を受けることができないものであるから、その特許は特許法第123条第1項第2号の規定により無効にすべきものである
[無効理由1]
本件発明は、甲第1号証に記載された発明と実質的に同一であり、特許法第29条第1項の規定により特許を受けることができないものである。
[無効理由2]
たとえ本件発明が、甲第1号証に記載された発明と同一でないとしても、本件発明は、甲第1号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
[無効理由3]
本件発明は、甲第1号証乃至甲第3号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
(2)証拠方法
甲第1号証:特開昭58-212936号公報
甲第2号証:特開昭50-151693号公報
甲第3号証:特開昭56-133137号公報
2. 被請求人の答弁
本件発明は、甲第1号証乃至甲第3号証に記載されたものとは明確に相違し、かつ、それらから容易に想到することができたものではない。
Ⅲ. 当審の判断
1. 甲第1号証乃至甲第3号証記載事項
〔甲第1号証〕
「本発明は繊維強化樹脂管状体に関し、さらに詳しくは、繊維強化樹脂の釣竿やゴルフシャフトなどの管状体に関する。」(1頁左下欄14~16行)、
「一方、比較のため、離型紙に担持されている第1、第2のUDプリプレグを、マンドレルに巻き付ける際に手積みによって重ね合わせ、・・・手積みによる重ね合わせのみによっては第1、第2のUDプリプレグ同志が十分強固に貼着されず、・・・プリプレグが皺になり、トレカT300の配列が一層乱れてしまった。・・・この管状体の第1、第2の層、特に第2の層は大きくうねっていて、正確な渦巻きを形成していない。」(6頁左上欄4行~右上欄7行)
と記載されている。
〔甲第2号証〕
「タテ繊維密度/ヨコ繊維密度またはヨコ繊維密度/タテ繊維密度が2以上の一方向性の織物に樹脂含浸した織物プリプレグ、または平行配列した糸条に樹脂含浸した糸条の配列が一方向性のプリプレグを2枚以上芯型に巻き重ねてなるつり竿において、該プリプレグの少なくとも1枚は織物プリプレグを構成する繊維密度が大なる方の補強繊維糸、または平行糸条のプリプレグを構成する補強繊維糸がつり竿の軸方向に対しα=±80°~90°の角度になる様に、巻いたことを特徴とするつり竿」(特許請求の範囲)の発明が記載されており、実施例には、タテ繊維密度/ヨコ繊維密度が2.9の織物にエポキシ樹脂を付着させたプリプレグを用い、周方向の補強を目的として、プリプレグのタテ糸を釣竿の軸方向に対し90°として2枚積層し、更にその上に軸方向の補強を巨的として、プリプレグのタテ糸を釣竿の軸方向に0°として4枚又は6枚積層し、硬化させて釣竿としたものが記載されている。
〔甲第3号証〕
炭素繊維を一方向に引き揃えた後、エポキシ樹脂を含浸しBステージ化したプリプレグシート(厚さ0.15mm樹脂含浸率37.5%)を繊維方向が芯金周方向に2層、長さ方向に6層更に周方向に2層長さ800mmで巻き付けし、成形用積層体とし、この外周を熱収縮性チューブで被包し熱硬化することにより、繊維補強樹脂製管状体を形成すること(実施例1)が記載されている。
2. 無効理由1について
(1)甲第1号証には、、
(2)本件発明と甲第1号証に記載されたものとを対比すると、甲第1号証の「第1のUDプリプレグ」および「第2のUDプリプレグ」は、各々本件発明の「第2プリプレグ」および「第1プリプレグ」に相当するから、両者は、釣竿の長さ方向と直交する方向にカーボン繊維を並び沿わせたシートに合成樹脂を含浸させた第1プリプレグを巻装して前記竿本体の最内層を形成し、該最内層の外側に、釣竿の長さ方向にカーボン繊維を並び沿わせた引揃えシートに合成樹脂を含浸させた第2プリプレグを巻装して、前記竿本体の外側層を形成すると共に、外側層を形成する第2プリプレグを最内層を形成する第1プリプレグよりも厚肉とすることにより、前記最内層の厚さを、外側層の厚さより薄くし、かつ、前記第1プリプレグの単位体積当りの合成樹脂含浸量を、第2プリプレグより多くした釣竿、である点で一致し、次の<1>、<2>の点で相違する。
<1>本件発明では、外側層を形成する第2プリプレグを最内層を形成する第1プリプレグよりも巻回数を多くするものであるのに対し、甲第1号証にはこれについて記載されていない点。
<2>本件発明では、第2プリプレグの単位体積当りの合成樹脂含浸量を、カーボン繊維を巻装可能で3.3wt%以下とし、また第1プリプレグの単位体積当たりの合成樹脂含浸量を、50wt%以下としたものであるのに対し、甲第1号証では、第2プリプレグの単位体積当りの合成樹脂含浸量を、20~60wt%とし、かつ第1プリプレグの単位体積当りの合成樹脂含浸量を、30~80wt%とした点。
(3)相違点について検討する。
相違点<1>についてみると、甲第1号証には、樹脂含浸量の異なるプリプレグを用いる場合に、外側層を形成する第2プリプレグを最内層を形成する第1プリプレグよりも巻回数を多くすることについての記載はなく、またこのことが本件出願前周知慣用であるとする根拠もない。
相違点<2>についてみると、第1プリプレグの樹脂含浸量は、本件発明は50wt%以下であり、一方甲第1号証に記載されたものでは30~80wt%であって、上限値および下限値は異なるが、両者30~50wt%において同一である。また、第2プリプレグでは、本件発明がカーボン繊維を巻装可能で33wt%以下とするのに対し、甲第1号証では20~60wt%であるが、下限値に関しては、甲第1号証においてもカーボン繊維を巻装可能な範囲になければならないことは当然のことであり、両者の樹脂含浸量は33wt%以下においては同一である。このように、両者とも同一の樹脂含浸量範囲を有する以上、この点で両者が実質的に相違するものということはできない。
(4)してみれば、本件発明は相違点<1>において甲第1号証に記載された発明と異なるから、本件発明が甲第1号証に記載された発明と同一であるはいえない。
(5)なお、請求人は、甲第1号証の
3. 無効理由2について
(1)本件発明と甲第1号証記載の発明との実質上の相違点は上記のとおり<1>であるので、この点について更に検討する。
甲第1号証の
そして、本件発明は、上記相違点<1>の構成を採用することにより、本件発明の他の構成と相俟って、明細書に記載されるような、竿全体の重量を軽量にすることができるとともに、竿の圧潰に起因する内面側の表層割れ、脱芯の際の最内層の表面の割れの防止、製造時の芯金への巻き付け易さ、加熱工程での第1プリプレグへの加熱工程での流入による最内層および外側層の引き裂き強度をの同上等の効果を奏するものである。
(2)してみれば、本件発明が、甲第1号証に記載された発明から当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
4. 無効理由3について
(1)無効理由2で述べたように、甲第1号証には、合成樹脂含浸量の異なるプリプレグを巻装して釣竿を作成するに当たり、両プリプレグの巻き回数を異ならせることの示唆がないので、この点について甲第2号証および甲第3号証の記載を検討する。
甲第2号証および甲第3号証には、いずれも、管の長さ方向と直交する方向にカーボン繊維を並び沿わせたシニトに合成樹脂を含浸させた第1プリプレグ、および管の長さ方向にカーボン繊維を並び沿わせた引揃えシートに合成樹脂を含浸させた第2プリプレグを巻装し、かつ後者の巻き回数を前者のものより多くすることにより製造された釣竿或いは管状体が記載されているものの、両プリプレグの樹脂含浸量は同一と認められ、これら甲各号証に記載されたものは甲第1号証記載の従来技術と異なるものではなく、樹脂含浸量が異なるプリプレグの巻き回数を異ならせることについての示唆はないというべきである。
(2)このように、甲第2号証並びに甲第3号証には、相違点<1>の構成についての記載ないし示唆はないから、本件発明が、甲第1~第3号証に記載された発明から当業者が容易になし得たものであるとはいえない。
Ⅳ. まとめ
以上のとおりであるから、請求人の主張する理由及び提示した証拠方法によっては、本件特許を無効とすることはできない。
よって、結論のとおり審決する。
平成7年7月25日
審判長 特許庁審判官 (略)
特許庁審判官 (略)
特許庁審判官 (略)